事例紹介と施設サービスの特徴

   オープンアームズ開設以来、ご利用者に現れた前向きな変化は、当老健・家族・その他の関係者にとって
  想像を超えていました。
   以下に、まず当老健での代表的な事例の一部(その他の事例は後述) を挙げ、次に想像以上の効果をもたらした
  サービス(4大サービス+その他)の特徴をご紹介します。
   オープンアームズは、
    「ご利用者の可能性を追求しよう。 可能性を引き出しながら、その人の生活を前向きに創造していこう。」
  との目標を掲げ、当老健の役割を追求し、展開します。


事例

①H.I(女)94才
  うつ病、脳梗塞・右片麻痺、両変形性膝関節症、変形性頚椎症、バルーンカテーテル留置、低栄養、急性肺炎4回、心不全
 ⇒ バルーンカテーテルを抜去。離床を励行する。車イス自走が可能となる。
   短下肢装具から長下肢装具へ変更し、歩行訓練・トイレ排泄介助を行う。
   個別脳トレーニング(名作読本を読む、数唱、2~4字熟語の宙書き、書字訓練)を行う。
   俳句クラブで作句し、添削を受ける。うつが減退し、活気と笑顔が戻る。
   貧血が改善する ・・・ 血色素(g/㎗) 10.6 → 14.4 ・ アルブミン(g/㎗) 3.5 → 3.7

②T.F(女)105才
  左大腿骨頸部骨折(観血的整復術)、変形性膝関節症、左乳癌手術後、胆のう炎、高血圧、狭心症、難聴。
  認知症:幻視、幻聴、不眠、帰宅願望。
      見当識障害:どこにいるのか、ベッドが何なのかがわからない。
            スタッフと下宿人、三女と長女の区別がつかない。
 ⇒ 学習療法により、自ら話しかけ冗談を言うようになる。見当識が良くなる。不穏が減る。日中の尿もれがなくなる。
   1年後、105才とは思えないほどスムーズに学習ができるようになる。帰宅願望が減る。楽しく学習に参加する。
   学習支援者(スタッフ)の姿を見つけると、家人に、「いつもお世話になっているので挨拶をするように」と促す。
   面会日には、その日の日付と時間を正確に答えてくれるようになる。
   
③K.O(女)90才
  脳梗塞、左不全片マヒ、歩行障害、両側変形性膝関節症、脊椎骨粗鬆症、腰痛、左大腿骨頸部骨折、肥満、糖尿病、
  高血圧、重度貧血、尿閉 → 膀胱内カテーテル留置。歩行できず(リクライニング車いす上で傾眠状態)。認知症。
 ⇒ 膀胱内カテーテルを抜去し、トイレ排泄訓練を開始する。→ 車椅子で、自分でトイレへ行くようになる。
   歩行器で、50mの歩行が可能となる。夜間せん妄、妄想、性急さが減少する。
   自発性が出現し、自ら「お手伝いをしたい」と申し出る。
   貧血が改善する ・・・ 血色素(g/㎗) 7.6 → 10.3 ・ アルブミン(g/㎗) 3.2 → 4.0
   脳機能テストが向上する ・・・ FAB 9/18点 → 13/18点 ・ MMSE 3/30点 → 17/30点
   
④S.N(女)90才
  重度の肺機能障害、暗い部屋への閉じこもり、廃用症候群。
 ⇒ HOT(酸素療法)・吸入療法導入。栄養を強化し、少量頻回歩行を励行する。
   身の回りや インテリアを明るく整え、離室し、俳句の添削を受け、行事へ参加するようになる。


施設サービスの特徴

   当老健がご利用者のニーズ(軽く考えた要望ではなく、生活・人生にとって必要と判断されるもの)を把える方式は、
  「竹内式高齢者ケアマネジメント ‐ 8領域 21ニーズ」に学び、出発したもので、漸次記録様式を変えています。

   サービスはニーズから導き出されます。
  当老健のサービス計画は、医師・看護婦・介護士・リハビリ療法士・栄養士・ケアマネジャーによって毎週開催される
  サービス担当者会議で、時間をかけて木目細かに検討して作られています。

   検討の過程では、ご利用者一人ひとりについて、病気・身体機能・職歴・学歴・嗜好・性格・行動パターンに留意し、
  「現状のレベルが望ましいレベルと乖離(かいり)していないか」の判定や、「乖離の原因」の分析には専門的知識が
  不可欠であると認識し合い、原因分析の上に「的」を射た計画を立てています。

①健康疾病管理
   病院は、疾病の精密検査・診断・治療を集中的・効率的に行い、病状を短期間に安定状態に到達させます。
   老健は維持療法を施しますが、加齢に伴う予備力の低下によってり急性増悪が起こりやすく、体調の変化も
   日常茶飯事です。
   これらへの、随時・適時の対応に努めています。
②水・栄養の管理
   高齢者は脱水症を起こしやすく、生活動作能力が落ち、活気・意識レベルも低下し、仮性認知症に陥りがちです。

    ◆当老健では、脱水症に注意を払い、経口水分管理表を用いてチェックし、必要時は点滴療法を施します。
    ◆栄養療法は、「健康を支える栄養学」に基づき、施設長が栄養素重視の食事処方箋をご利用者毎に吟味して発行
     し、専任の栄養士が食材の調達(冷凍食品を使わず鮮度のよいもの)やメニューを担当し、味覚・視覚上優れた
     食事を提供しています。
    ◆加えて、後述の佐藤和子先生が研究を重ねて開発された食事分析ソフトを用いて、重要な栄養素を充足する献立を
     作成することが可能になりました。 平成21年に導入し、活用できていることは、心身の回復のために食事を重視
     している当老健の方針を支える、力強いツールになっています。

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  以下は、平成17年12月 全国介護老人保健施設協会発行の機関誌「老健」掲載文より抜粋

顔写真
   生き生きはつらつ暮らせる『食』を求めて

             栄養士 黒澤 一政



   「栄養重視」は当施設の三大サービスの一つである。
  施設長(内科医師)が指導する「健康を支える栄養学(大塚製薬健康推進本部長・佐藤和子医師の提唱による)」に
  基づく食事は、蛋白質・ビタミンなど主要な栄養素を含む食品群(第一は赤群・第二は青群)を強化し、生活活動度・
  体重・血糖を指標に黄群食品の摂取単位数を調査するもので、従来の、年齢・身長・生活活動度による所要エネルギー
  や三大栄養素の比率の枠にとらわれない。 これにより、多くのご利用者に、体力・気力・貧血・低蛋白血症・やせ・
  肥満・顔や毛髪の色艶が改善されていく。

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  以下は、平成25年2月20日 福島県立須賀川桐陽高等学校で、校医産業医として開いた健康管理講座からの抜粋です

  「健康を支える栄養学」の紹介

            施設長 黒澤 厚美

   独自の栄養学によって、前人未踏の食事療法を打ち立て、「病気の予防・病気からの速やかな回復・健康状態の
  より良い維持」に成功した豊富な事例を蓄積できたので「健康を支える栄養学」と命名した。
   提唱者 佐藤和子医師(経歴、著書、ビデオ、講演、後述)

③コミュニケーション
   周りの人が、ご利用者をひとりぽっちにせず、見放さないことを行動で教える。

    ◆当老健は、小規模(入所・ショートステイを合わせて 50床)・家庭的で、人々の暮しの中にあるため、世間から
     引き離された寂しさがありません。 家族・友人が容易に訪れ、医院の外来患者さんも寄っていってくれます。
    ◆オープンアームズの呼称の意味(歓待の家)にふさわしく、年齢・職業・立場の異なるたくさんの人々の訪れを
     両腕を広げて歓迎・歓待し、ご利用者とのコミュニケーションを豊かにします。
④文化的・知的環境
   もてなし方は、相手への敬意を表します。 ご利用者(高齢者)に失われがちな、誇りと感動を回復させます。
  そのため、文化的・芸術的・知的な刺激のある環境と、エレガントな生活を提供しています。
  インテリア・家具調度品は大人向けの美意識に合わせ、幼稚園と見まがうような飾りつけは御法度です。

    ◆当老健の玄関を入ると、欅の大樹から造られた重厚な置看板があります。
     「医療法人黒澤医院併設 老人保健施設オープンアームズ」と、理事長の恩師が墨書されたもので、堂々とした
     存在感があります。
    ◆判りやすく美しい風景画・美人画が、その季節に合うものに交換しつつ、全階にかけられています。
⑤生活リハビリテーション
   今日の進んだリハビリテーションは、「目標指向的リハビリテーションと介護」が柱で、それによれば、
  リハビリテーションの目的は「リハビリを受ける人の生活の質と人生の質をよくすること」とされています。
   当老健でも、その柱に準拠したリハビリテーションをめざしています。

   具体的、かつ、不可欠な方法は、
    第1に、人生の主目標を決めます。(どういう人生を生きたいのか、何をして生きたいのか)
    第2に、主目標を実現する具体的な生活像を定め、その生活像に的をしぼった活動向上訓練によって
        活動能力を向上させます。
⑥廃用症候群(生活不活発病)
   高齢者に起こりやすく、悪循環に陥れば、寝たきりになったり、生きがいを失うことになります。
  年のせい、病気のせい、と誤解されています。
  生活が不活発であると、全身や身体の一部、そして精神機能にまで影響が出ます。
   原因は3つ。
    1. 麻痺、筋力低下、不随意運動、痛みのため身体を動かさなくなった。
    2. 慢性疾患、手術(小手術のときさえある)後に安静をとりすぎた。
    3. 定年、転居などにより外出不足(閉じ込もり)になった。
   心身機能の低下が回復しないうちでも、活動向上訓練によて、廃用症候群を回復させることが可能です。
⑦学習療法 ~学習者と家族とスタッフにおける変化の紹介~
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 以下は、平成25年5月12日に開催された「学習療法シンポジウム in 仙台」での、黒澤施設長の講演です

             
                     画面をクリックしてください


 
  学習療法は、施設全体を変化させる
    ~ 変化を起こした要因を探る ~

            施設長 黒澤 厚美

   オープンアームズは、平成10年に開設して15年目を迎えます。
  私は、平成18年に導入した「学習療法」が当施設に極めて価値のある変化をもたらした要因と、
  震災に於いて施設サービスの早期復旧を後押しした要因についてお話しいたします。

    (1)施設の目標 : 高齢者の生活を創造する
         多くの専門職が専門的知識を磨いて協力し、一人ひとりちがう高齢者の可能性を探求し、
        生活スタイルを、当施設以外の生活環境・住居を視野に入れながら、前向きに創造する。

    (2)4つのサービスの柱
        ①コミュニケーション ②栄養の重視 ③生活リハビリテーション ④学習療法

   サービスを進歩させるため、学問的根拠に基づく、優れた方々の実践を採り入れてきました。
  栄養学は、佐藤和子氏。 介護学は、竹内孝仁氏。 生活リハビリテーションは、上田敏氏・大川弥生氏。
  認知症は、竹内孝仁氏・金子満雄氏です。
  
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顔写真
  学習療法とコミュニケーション

       学習療法サブリーダー
            介護士 富永 正子


   「おはようございます。 今日も楽しく、頭の体操をしていきましょう。 よろしくお願いします。」 と、学習療法は、
  この挨拶から始まります。 そして、コミュニケーションも、これから始まります。
   私は「学習療法」を、恥ずかしいのですが、当施設で導入をすると言われるまで全く知りませんでした。
  学習療法という言葉を初めて聞いた時は、「今さら勉強するのか、なんのために?」 というのが率直な感想でした。
  勉強をして何になるのだろう、そんなことをして楽しいのだろうか、という疑問を抱えながら、私は研修を通して、
  学習療法というものを学んでいきました。
   リーダー研修では、実際に学習療法の現場を見学させてもらって、まずはじめに思ったことは、ご利用者(学習者)も
  学習スタッフも楽しんで行っているということ。 これが学習なんだと、その時実感しました。